株式会社シンクシーはフィッシュレザー・革製品の製造販売を行っており、自社ブランドの「tototo」では、数々のフィッシュレザーアイテムを取り扱っています。
一般的な革製品は牛や爬虫類の革を使って作られるもの。
フィッシュレザーには一体どのような特徴や魅力があるのでしょうか。
今回は株式会社シンクシーの代表である野口 朋寿さんにインタビューの機会を頂戴しました。
- 2015年 創業者の野口 朋寿さんが富山大学芸術文化学部在学中に、廃棄される魚の皮から「フィッシュレザー」を製造する研究を始める。
- 2020年4月 自社ブランドである「tototo」を立ち上げる。
- 2022年7月、魚革・革製品の製造販売事業を行う、株式会社シンクシーを設立。
tototoが作り出すフィッシュレザーについて、詳しく知ることができるストーリーです。
ぜひご覧ください。
「tototo」偶然の出会いがフィッシュレザーのはじまり
今ではフィッシュレザーを革製品にして、数々の商品を作り上げている野口さん。
学生時代から革と触れる機会があったようです。
「大学で芸術系の学部に行っており、漆を使ってお椀やお皿を作る勉強を専門にやっていました。卒業研究が始まる時期に、革を組み合わせて違った素材の研究ができないかなと思って取り組み始めたのが、一番初めのきっかけになります。」
もともとは漆の勉強をしていた野口さん。
そこから革素材と漆を組み合わせることを思いつき、新しく研究を始めました。
「研究を続ける中で、生の皮を丈夫なレザーにする”鞣し”の技術に興味が湧いてきたんです。牛革や豚革は手に入りづらいので、スーパーで焼き鳥用の鳥皮などを買いました。そしてそのときに魚の『スズキ』もついでに買って実験的に始めてみたんです。今の仕事に結びつくまでには長い時間がかかりましたが、これが始まりですね。」
生の皮を製品として使える状態にする”鞣し”という技術。
野口さんはこの鞣しの技術に興味を持ったとのこと。
驚くことに、はじめはスーパーマーケットで買った魚を使って実験を始めたとのこと。
しかしこのきっかけが、のちの「tototo」立ち上げに繋がっていくのです。
「実験を始めたての頃は全然うまくいきませんでした。でもそのあと富山県の氷見市でNPO団体の方が、地元で採れた魚の皮を加工してサンダルを作れないかという企画を投じ始めていまして、自分もその時まだ実験を始めたばかりでとても興味があったので、そこに加わって実験をしていくことになりました。2年半くらいかけてようやくある程度の品質までたどり着きました。丈夫で生臭くない、動物の革に近いものができるようになっていきましたね。」
富山県氷見市はブリが有名な地域です。
そんな氷見市で野口さんの実験と似通った取り組みをしていたという偶然の出会いから、フィッシュレザー完成に向けて大きく歩を進めることとなりました。
「その後、富山県氷見市の『地域おこし協力隊』という町おこしに関する仕事を始めて、これが町おこしとして認められるものであれば割と自由に活動できるものだったんです。氷見市はブリが有名なので、ブリの皮を加工して製品として販売するという活動を始めました。」
氷見市の特産品であるブリの皮を加工して製品にするという取り組みが始まり、ついにフィッシュレザーが商品化されることになります。
「地域おこし協力隊の2年目にクラウドファンディングを始めて、そこで集まった資金で革製品を作って販売するという流れが出来上がりました。そこからは魚の皮を加工してフィッシュレザーにしては製品にして、販売して、また作ってというサイクルです。そのうちにだんだんと作る量や販売する量が増えていって、今の事業に至っています。」
学生時代からの長い実験を経て、ようやく実を結んだフィッシュレザー。
それからは、製造と販売のサイクルがどんどん大きくなり、今の事業に至ったとのことです。
\ 始まりはスーパーのお魚コーナー /
「tototo」一匹一匹で個性が違うフィッシュレザーの魅力
一般的なレザー製品は牛や爬虫類の皮を加工して作るのに対して、フィッシュレザーはその名の通り魚の皮を加工して作られています。
そんなフィッシュレザーならではの魅力を、野口さんに語っていただきました。
「魚によって鱗の模様が違うところが大きな特徴です。例えばブリだと鱗が細かくてツヤっとした模様になっています。それに対してタイは鱗の模様が大きいです。このように魚の種類によって見た目が違うところが特徴で、模様に個性があり、見た目がとても綺麗な点が魅力的だなと思っています。」
tototoではブリ・真鯛・鮭などの革を扱っており、どれも鱗の模様の特徴が異なります。
同じフィッシュレザーと言っても、よく見ると見た目に違った特徴があり、好みによって好きな魚を選ぶことができるのです。
また魚一匹一匹によっても、製品にしたときの模様に差があります。
それはまさに、自分だけのオンリーワンのアイテムとして、「自分らしさ」を引き立ててくれるでしょう。
「メンテナンスは牛革と同じように、汚れてきたら布で拭いてあげるとか、革用のクリームを塗ったりするといいと思います。」
長く使うためにはメンテナンスは欠かせないもの。
布で拭いたり、革用のクリームを塗ったりして、大事に扱うとよいでしょう。
\ 一匹一匹にそれぞれの個性がある素材 /
「tototo」独特な模様が魅力的な名刺入れ・お財布
tototoではフィッシュレザーを使った商品が多く取り揃えられています。
フィッシュレザーを商品に加工する際には、大きな課題があったようです。
「フィッシュレザーの製品を作る際に、ひとつ大きな課題がありました。それは革のサイズです。牛や豚のように大きな革を扱うことは難しいので、始めは小さいものから作ろうということになりました。まずは名刺入れとお財布を商品化しました。」
牛や爬虫類とは違い、魚の革は一匹から取れるサイズがとても小さいです。
そのため大きなサイズのアイテムは作りづらいとのこと。
そこでまずは、名刺入れと小さなお財布を作るところからスタートしました。
「一番人気は名刺入れです。特にブリの革を使用して作った名刺入れはプレゼントとして人気がありますね。ブリは出世魚なので、『仕事で活躍できますように』という思いを込めた贈り物として購入される方が多いです。これは牛革などの革にはない魅力だと思っていて、日本の歴史や文化と結びついた素敵な考え方だと思っています。」
一番人気のアイテムは名刺入れとのこと。
特にブリの革を使った名刺入れは、ブリが出世魚であることから社会人の方へのプレゼントとしてとても人気があるようです。
牛革などの革製品ではできない、フィッシュレザーならではの気持ちの込め方ですね。
tototoでは、そんなフィッシュレザーを使ったアイテムが多く取り揃えられています。
ぜひこの機会に公式オンラインショップをチェックしてください。
\ 魚ならではの思いを込めたギフトを /
「tototo」環境を守り、海とともに生きていく
tototoのアイテムたちは、どれも環境を大切にしながら作られています。
環境に優しい仕事にこだわりながら製品を作り続ける。
そのこだわりについてお伺いしました。
「はじめは自宅のアパートで実験するような形で皮を加工していたのですが、危ない薬品は使えなかったんです。でも革の加工所などに見学に行くと結構危ない薬品ばかり勧められまして、もっと身の回りにある自然なものでできないだろうかと思いながら模索していました。」
「結果的に植物のタンニンを使ったり、さらにその前段階の鱗を取ったり油分を取る段階では、市販の環境に優しい一般的な洗剤を使ったりする、環境に優しいやり方が確立できました。革産業の中では環境に悪い薬品を使うことが当たり前のようになっているので、そこを変えていきたいと思っています。」
もともとはアパートで実験するところから始まったフィッシュレザーづくり。
危険な薬品は使えなかった環境だったからこそ、最終的に環境に優しい方法が確立できたのです。
「あとは廃棄のことについても知っていただきたいです。小さな田舎の魚屋さんでも、毎日バケツいっぱいにどっさり廃棄の魚が出るんです。それらは全て焼却されてしまうんですが、捨てる量が多いのでもったいないなと思いました。我々が素材を扱ったり消費していく中で、こういった廃棄されてしまう素材があるということも認識して、素材を無駄にしないという意識を持つことが大切だと思います。」
限りある素材をいただいて、人間の暮らしを豊かにしている。
そんな気持ちを忘れずに素材を扱うべきだと、野口さんはおっしゃっていました。
環境に配慮しながら、素材への感謝を忘れないtototoの革づくりは、これからも続いていきます。
\ 海と共に生きる未来を守りたい /
「tototo」まとめ:フィッシュレザーを日本に広めたい
最後にtototoの今後の展望についてお聞きしました。
「ブランドを立ち上げて4年間ほど経ちましたが、自分がフィッシュレザーを扱っていることで他の会社さんや個人でものづくりをされている方から、フィッシュレザーを素材として活用したいというお問い合わせが増えました。今は革製品を作って販売することに加えて、フィッシュレザーを革素材として販売するということもやっています。」
tototoとしてアイテムを製造・販売するだけでなく、フィッシュレザーという素材をさらに広めるべく、企業様や個人のお客様への販売も始めているとのこと。
この取り組みがきっかけに、フィッシュレザーがより多くのお客様に届くことでしょう。
また環境保護への取り組みも、これからさらに追及していくとのこと。
「もっと環境に優しいレザーを目指したいと思っています。なので製造に関する部分はできるだけ自然のものを使ってますし、今後は染色の工程でも草木染や藍染なんかを取り入れようとしています。もっと自然の素材で作ったフィッシュレザーを目指しているところです。」
天然の染料を使ったフィッシュレザーを作ろうという取り組みも始めているそうです。
どんな風合いの素材ができるのか、楽しみですね。
「昨年は、サモア独立国で廃棄されている魚の皮でフィッシュレザーを作れないかというプロジェクトを始めました。これは海外の事業ですが、国内でも同じように各地の魚関係の会社様から同様のお問い合わせをいただく機会が増えています。まだ実践には移せていないですが、日本の様々な地方で採れる魚の革製品を作って、その地域をアピールする製品を作っていけたらいいなと思っています。」
日本は海に囲まれた国です。そのため様々な地方で、様々な魚が採れます。
フィッシュレザーを通じて、多くの地域に名産品となる商品が増えていくかもしれません。
アパートの一室から始まったフィッシュレザーづくりは、日本全国へと広がっていきました。
これからもtototoは魅力的なフィッシュレザーを発信し続けていきます。
\ アパートから日本全国に広がるフィッシュレザー /