「HIS-FACTORY(ヒズファクトリー)」は、イタリア植物タンニン鞣し革をメインとした鞄や財布などの革製品を製造・販売しています。
東京都墨田区に工房ショップを構える「HIS-FACTORY」。
1Fの工房で鞄・バッグ・革小物を制作し、2Fのショップで販売を行うスタイルで工房ショップを運営されています。
今回は「HIS-FACTORY」の代表である中野 克彦さんにインタビューの機会を頂戴しました。
- 1986年 鞄の製造メーカーに3年勤務。
- 1989年 製造メーカーとして独立(他社製品ブランド制作)
- 2006年 自社ブランド「HIS-FACTORY」を立ち上げ。
- 2007年 墨田区の工房ショップとして認定(すみだ3M運動)
- 2019年 2F工房ショップリニューアル
- 2021年 フジテレビ なりゆき街道旅 放映
流行にとらわれないものづくりにこだわる、「HIS-FACTORY」の熱い思いが伝わるストーリーです。
ぜひご覧ください。
「HIS-FACTORY」薄利多売の時代に感じた「このままじゃダメだ」
今では「HIS-FACTORY」で多くの革製品を手掛ける中野さんですが、もともとは金具屋で働いていたとのこと。
その後、当時のお客様に誘われる形で、主にメンズ製品を扱う鞄メーカーで働き始めました。
「20歳の頃は金具屋さんにいたんですが、2,3年経ったころお客様に『うちに来ない?』と誘われまして、鞄(主にメンズ)を製作する下請けメーカーで働くことになりました。そこで初めて革に触ることができたんです。当時イタリアンレザーはほとんど知られていなかったですね。この頃の職人さんは、国産のヌメ革にコバに染料を入れて磨き仕上げるなど、こだわった製品作りをしていたのも覚えています。」
革を扱う仕事を始めた中野さんでしたが、約3年後、仕事を覚えてきた頃に転機が訪れます。
「ある時、勤めていたメーカーの社長が『会社をたたむ』と言い出したんです。当時は忙しかったんですが、色々あって経営不振が悪化していたようで…。でもせっかくここまでやってきたし、職人さんもまだいたので、引き継ぐ形で独立しました。それが24歳のころですね。」
思わぬきっかけで独立を果たした中野さん。
もともと独立は考えていなかったものの、「せっかくここまでやってきたのだから」との思いで、24歳の頃に独立する決心を固めました。
「独立してからは、職人さんに仕事を切らさないよう、しばらくメーカーの下請けの孫請けもしていました。卸先問屋と直接取引するメーカー業(他社ブランド生産)としてやっていけるようになった頃の取引先は、トレンドを意識したライセンスブランド生産が主流で、素材は革とナイロンや生地の異素材とのコンビネーションしているレデーィスバッグが主流でした。コストを意識した安価なものが多かったです。」
「1980年代後期から1990年代頃は、日本のほとんどの職人さんは後継させず辞めていってしまいました。加工賃がどんどん安くなっていったからです。また多くのアジア系の人たちが出稼ぎにやってきて、小さな工場が次々とできました。私も数件の工場に依頼し、日中はデザイナーとの打ち合わせ、材料屋さん、裁断屋さん、革漉き屋さんまわり、夕方から夜にかけて工場まわりという日々が続きました。」
「さらにコストを下げる要求が続き、アジアに生産依頼する問屋も多くなりました。私も1990年後期から2000年代前期に中国での生産を依頼しました。生産受注はどんどん多くなり、ひと段落することなく次の依頼があり、約3~4年止めることができないほど続きました。薄利生産の中、注文書通りの生産をしているのに在庫を持たされたり、値引き、更には返品など、ものづくりとは程遠い感じでした。」
「売上は上がりましたが、売上代金の回収は遅々として進まず、気が付いたら赤字で火の車でした。忙しいことがステータスだと勘違いしていた私は、周りに流され足元が見えていませんでした。今思うと愚かだったなと思います。」
独立後は、「薄利多売」の流れが加速し、中野さんも約3~4年の間、中国に生産依頼をした時期があったそうです。
利益は出ずに赤字が続くこともあり、このままではダメだと思い悩む日々が続きました。
\ 金具屋さんからキャリアが始まった /
「HIS-FACTORY」原点に戻る
「海外生産はもうこりごりで、日本の高齢の職人さん4~6件のご縁をいただき国内生産に戻しました。20代前半に当時の社長や師匠(唯一尊敬できるメーカーさん)がやっていたコバ磨きをやろうと決めました。師匠に相談すると“食えないかもしれないぞ・・・”と脅かされました。なぜなら、手間がかかりすぎて自分の工賃が出ないと。大変なのは分かっていましたが、何か際立つものが欲しかったんです。」
「当時の取引先の問屋(メンズ鞄専門店)に提案したのですが、やはり生産は大変でした。一人では量産をこなせずバイトを雇ったりもしましたが、師匠が言ってた通り人件費を払うと自分の給料は出ませんでした。ここでも利益は出ず、ナーバスになる日々が続きました。」
それでも後に引けないと感じた中野さんはコバ磨きを続けたそうです。
「HIS-FACTORY」あるとき初めて気づいた革の奥深さイタリアンレザーとの出会い
ある時、中野さんのもとにアパレル系のデザイナーから、ブッテーロとミネルバボックスを使ってサンプルを作ってほしいという依頼がありました。
初めてイタリア植物タンニン鞣し革を見た中野さんは、まず革の色の美しさに魅了されました。また、染料染めで色濃いのに透明感があり、しっとりとした手触りだったことから、明らかにそれまで見てきた革とは違うことに気づいたそうです。
「コバ磨きをしてみると、なんとあっという間にコバが鮮やかに光り輝きました。また、傷がついても擦ると直り、使い込むほど色艶が上がり、『味』とはこういうものだと思い知りました。裁断してみると、凍ったバナナに真っ赤に熱したナイフで切ったようでスーッと革切り包丁が進みました。」
イタリアンレザーとの出会いが、中野さんに大きな変化をもたらしました。
「メーカー業の量産の生産管理をしていた頃は、正直言って革のことを商品の一部としか見ていませんでした。問屋さんからコストを意識され指示された革でしか生産してこなかったので、当時約20年も業界にいたのに、知らなかったというのがショックでした。」
「ここで興味を持たなかったら、製造業を辞めていたかもしれません。でも、イタリアンレザーに出会って、『この革なら良いものが作れるかもしれない』とモチベーションが上がり自社ブランドを立ち上げようと思い立ちました。」
革を「商品の一部」として見ていた中野さんでしたが、イタリアンレザーとの出会いがきっかけで、革の奥深さを知り、自社ブランドを立ち上げることを思い立ったそうです。
\ 初めて気づいた革の奥深さ /
「HIS-FACTORY」メーカー業では起こり得ない出来事ばかり
「他社ブランド生産のメーカー業はまだ続けていましたが、いつも下請けの脱却を考えていました。まずは2Fの事務所をショップに改装しようとホームセンターに通い、夜な夜な手作りでお店作りに励みました。」
「また、オリジナルのデザインやサンプル作りも試みますが、そう思い通りにはうまくいかず、想像以上に大変でした。5~6年は鳴かず飛ばずでしたね。」
「2007年に墨田区の工房ショップ(すみだ3M運動)の認定をきっかけに、街と地域が大切なことを学びました。さらに2011年『すみだ川ものコト市』という氏神様『牛嶋神社』にて、クラフト市が開催されました。このイベントをきっかけに、人のつながりの大切さを学びました。」
「『スミファ』や隅田川対岸の蔵前『モノマチ』や奥浅草の『エーラウンド』などのものづくりのイベントにも積極的に参加し、ワークショップなどで、ものづくりが好きな方と触れ合うご縁もいただきました。」
「工房ショップでも積極的にイタリアンレザーを使った革小物のワークショップからトートバッグのワークショップも開催しました。」
様々なイベントやワークショップを通じて、お客様の声を直接聞く機会が増えたことで、どんどんアイデアも湧いてくるようになったそうです。
「また、蔵前の『m+(エムピウ)』さんとのコラボ【GAGLIARDO(ガリアルド)】をリリースさせていただき、バイヤーさんの目にも止まるようになり、少しずつ自信につながってきました。」
野性味ある質感の革“プエブロ”で外側を包みこんだ、1本持ち手の鞄「GAGLIARDO(ガリアルド)」は、『m+(エムピウ)』とのコラボで、細部まで一切妥協のない逸品ですよ。
\圧倒的な存在感「ガリアルド」 /
「HIS-FACTORY」長期使用に耐えられ愛着が湧く革製品作り
中野さんに「HIS-FACTORY」のコンセプトについてお聞きしました。
「大量生産せず、一つ一つじっくりと製作しています。自分の目が行き届かないものづくりはしたくないんです。」
物があふれるこの時代だからこそ、あえて大量生産はしない。
そこには、「自分の目が届かないものづくりをしたくない」という強いこだわりがありました。
「イタリアンレザーを調べていると、トスカーナ州にイタリア植物タンニンなめし革協会というのがあって、85%以上植物由来(タンニン)の成分で鞣されていること、一時は時間も手間もかかりすぎるという理由で、この世から消えようとしていたバケッタ製法を現代に蘇らせて、1000年の歴史と文化を継承していることを知って、感銘を受けさらに惚れ込みました。」
「新品がピークではなく、5~10年使い込んでピークになる鞄を作りたいと思いました。」
その想いには、イタリアのタンナーに対するリスペクトが込められています。
何十年も長く使えて愛着の湧くアイテムは、その人にとってかけがえのないアイテムとなるでしょう。
\ 人生をともに歩むアイテムを作る /
「HIS-FACTORY」の人気の商品「トートバッグ ammassare-アンマサーレ-」
「HIS-FACTORY」の代表的な作品「トートバッグ ammassare-アンマサーレ-」。
本体にプエブロ、持ち手・ハカマ・根革など負荷のかかる個所はブッテーロを使用し、上品でありながらも堅牢な作りになっています。
経年変化を楽しみながら、10年20年と長い時間を共にできるアイテムです。
本体のプエブロは、手作業で吟面を優しく擦り細かな模様をつけ“プエブロインディアンの集落”を表しています。
牛脂を含む秘伝オイルを含んだ“バケッタ製法”で作られているプエブロは、使い込むほどに色艶が上がり、個性的な経年変化、育ちを楽しむことができます。※タンナー:バダラッシーカルロ社
持ち手、根革は長期使用に耐えられるようブッテーロを使用し、0番糸で縫製することによってさらに強度を高めています。※タンナー:ワルピエ社
まさに10年20年と使い続けることで、どんどん魅力が増していくトートバッグです。
「私がプエブロレザーを扱い始めたころは、まだそれほど出回っていなかったと思います。 情報が雑誌からインターネットへと変わり、新規のこだわりのレザーショップさんをはじめ、自分たちもSNSやYouTubeでイタリアンレザーについての発信を継続していました。特にプエブロレザーの経年変化についてコロナ禍にYouTubeに投稿したら、約2年で10万回再生になっていました。イタリアンレザーに興味を持つ方が増えているということだと思います。」
プエブロレザーの大きな魅力は使えば使うほど色艶が上がる経年変化。
「HIS-FACTORY」の公式YouTubeチャンネルでは、プエブロレザーの経年変化についてわかりやすく解説されています。
新品商品と比較してプエブロレザーの経年変化が紹介されているので、色や質感の変化がとても参考になりますよ。
トートバッグの他にも「HIS-FACTORY」では、ビジネスシーンから日常のプライベートライフまで、様々な場面で活躍する革製品を取り揃えています。
「HIS-FACTORY」公式オンラインショップにて商品をぜひチェックしてみてくださいね!
\ 経年変化が魅力のプエブロレザー /
「HIS-FACTORY」まとめ:世界に一つだけのアイテムを作る
最後に中野さんに、「HIS-FACTORY」のこだわりについて深く語っていただきました。
「今も覚えている言葉なのですが、80年代後半ある有名なアパレルのデザイナーさんが『電車で隣の人が着ている服は絶対に着たくない。だから自分のブランドがあるんだ』って言っていたんです。ずっと人と被らないものづくりっていいなと思っていました。でも私は製造メーカーで長い間、ライセンスブランドの大量生産を続けてしまいました。」
「当時は若くて知識もなく、世間知らずの勢いだけで仕事を回してきたって感じです。下請けの脱却から自分のやりたい仕事に方向転換するのは、15年くらいかかりましたが、多くのお客様や地域の皆様のおかげで、現在の体制にシフトすることができました。鞄は一つ一つオーダーメイドで制作販売しています。同じ形でもセミオーダーで革の色、裏地の色をカスタムできて、唯一無二の逸品を作れるというのが作り手冥利に尽きます。」
一時は大量生産で商売を広げていくのが良いと感じていた中野さん。
ですが今は、人と被らないものづくりを続けていきたいと語っておられました。
「一番嬉しいのは、うちで誂えたトートバッグのお客様が『この前あるショップで、“それどこで買ったんですか?”と店員さんに聞かれたので、“HIS-FACTORYでオーダーで作ってもらったんですよ。”って言いましたよ!』とわざわざ伝えに来てくれること。ファンの方がそういう風に言ってくれることが本当に嬉しいです。」
「HIS-FACTORY」にしか作れないものをお客様に届ける。
そんなこだわりがあるから、購入したお客様もついつい誰かに言いたくなる。
トレンドアイテムが大量に消費されるこの時代に、「HIS-FACTORY」は流行に流されることなく、お客様の声に耳を傾けた丁寧なものづくりを続けています。
「オーダーメイドのフルオーダーも復活し、今後はお客さんとオフ会イベントを開いて「経年変化の発表会」とか「どんな鞄が欲しい?」とか交流ができたらいいなと思っています。オリジナルデザインの新作も作りたいですが、お客様お一人おひとりのご要望を聞いて、その人だけの逸品づくりを続けられたら最高ですね。」
今後も、もっと生の声を取り入れ、よりお客様の期待に応えていきたいと語っておられました。
「HIS-FACTORY」はこれからも、お客様に寄り添ったものづくりを続けていきます。
\ 流行を追わない丁寧なものづくり /